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特別なできごと Vol.7 特別なできごと Vol.7

ワインのために、グラスメーカーができること

ワインのために、グラスメーカーができること

ワインの個性を際立たせ、つくり手の想いまでも再現する革新的なグラスづくりでワインのポテンシャルを広げてきたリーデル社。同社のグラステイスティング*を日本に紹介し、「グラスでつくり手と飲み手の距離を縮める」ことを実践してきたグラスエデュケイターに、お話を伺いました。

*グラステイスティング…同じワインで、グラスを変えながら香りや味わいの変化を学ぶ、正しいグラス選びのためのプロセス。

チーフ グラスエデュケイター 庄司大輔氏

グラスとワインの関係。

グラスとワインの関係。

庄司大輔氏

庄司大輔氏

リーデル・ジャパン テイスティングマネージャー。チーフ グラスエデュケイター。JSA認定ソムリエ。

グラスエデュケイターとは

グラスの形状によりワインの香りや味わいが変化することを飲み手自身に体験してもらい、ワインの楽しみ方の幅を広げてもらうことを目的として活動しています。海外では支社長が兼務することが多いですが、日本では専門職を置き、正しいグラス選びをお伝えすることに力を注いでいます。ほぼ毎日ショップで開催されるグラスセミナーは、エデュケイション(教育)とエンターテイメント(遊び)を組み合わせた“エデュテイメント”として、日本におけるグラステイスティング・カルチャーの普及に努めています。

「ワインを楽しむ」ことだけに集中して、グラスづくりをはじめたのが9代目のクラウス・リーデルで、10代目がそれをマシンメイド化し、ぶどう品種別に形の違うグラスシリーズを世界に広めました。それまでは、赤と白で大きさは異なるものの形は限定的で、ディナーセットの一部としてテーブルウェアを美しく引き立てるもの、という認識が主流でしたので、現在のワイングラスの原型となる洋ナシ型のフォルムが世に出たときは非常に斬新だったと聞いています。ところが、ブルゴーニュ地方(仏)とイタリアの生産者からは「このグラスはワインの味を変える」と評判になりましたが、ボルドー地方(仏)のワイン生産者からはよい評価が得られず、そこから“品種”によっても最適なグラス形状が異なることを学んだのです。

以来、香りや味わいとグラス形状の関係について研究を重ねてきましたが、これらグラスの発展の歴史は常にワイン生産者とともにあり、生産者が自らの哲学や手法をつぎ込んだワインの価値を「正しく再現すること」を、グラスづくりの原点としています。

グラスづくり
グラスづくり

オーディオを選ぶように、グラスを吟味する。

オーディオを選ぶように、グラスを吟味する。

例えば、オーケストラの録音演奏を聴くとき、どんなオーディオ機器で再生するかによって、その印象は変わりますよね。音源は変わらないのに、デバイスや環境を整えることで細かい音まで聞こえたり、目の前で演奏しているように感じたり。同様に、ワインを飲むときは「ワインの状態」「温度」「グラス」の3つの環境を整えることが重要です。相性のよいグラスで飲むと、まずワインの骨格がはっきりと分かります。そのため、これまでとは違った“美味しさ”に気づく方も多いのです。

よく「いいグラスで飲むとワインが美味しくなる」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、そんな魔法はありません(笑)。美味しいワインも器の形が合っていないと、口へ運ばれたときにバランスを崩し、その真価に気づけないだけなのです。もしワインがお好きで、週に2本くらい空けられる方なら… 1本1500円のワインでも年間50週で15万円。それだけの価値を正しく受け取って飲むか、ミスマッチのまま飲み続けるか。グラスに投資することへのリターンは、意外と大きいかもしれませんよ。

ワイングラス
ワイングラス

“イット”グラスを探して。

“イット”グラスを探して。

マスカット・ベーリーA

グラス右:〈オバチュア〉 レッドワイン
グラス左:〈ヴェリタス〉 オールドワールド・シラー

岩の原さんとは、既製グラスの中でマスカット・ベーリーA(以下、MBA)との相性を探ってきました。2010年頃にはじめてグラス選びのセッションをしたとき、品種の特徴が突出するでもなく、すべてがキュっとまとまる小ぶりのグラスを選ばれて。そのとき岩の原さんから「身の丈に合ったグラスを」とコメントをいただいたのが印象的でした。MBAの華やかな香りを武器にするなら、香りがパッと広がる大ぶりのグラスの方が分かりやすいし、外国産の力強いワインとも闘えるのではと思いましたが、飾らない、等身大のワインを見て欲しいというメッセージなのだなと気づき、「岩の原さんらしいな」と思ったことを覚えています。

先日、それから数年ぶりに再び岩の原さんにMBAグラスを選んでいただく機会がありました。今回は、前回よりも2回りほど大きなオールドワールド・シラーをセレクト。畑への取り組みや、造りの現場でハードルを上げて来たのを知っていたので、その分“身の丈”が膨らんだなと、選ばれたグラスを見て納得しました。実際、前回のオバチュアというグラスでは、今のMBAの余韻を受け止めきれなくなっています。岩の原さんが造りを進化させる中で出てきたMBAの新しい一面(余韻)を、新しいグラスでは感じることができます。

グラスメーカーは、つくり手と飲み手をつなぐ、いわば“運び屋”です。同じ運び屋でも、私たちはつくり手のメッセージまで届けたい。私自身ワイナリーで働いた経験から、1本のワインが生まれるまでには膨大なストーリーがあることを知っていますので、私たちのグラスでワインを口に含んだ瞬間、そのストーリーに触れていただけたらと思っています。セミナーをやっていて一番うれしいのは、ぴたりと合ったグラスで飲まれたお客さまの表情がパッと輝いたとき。それは私にとって、最高にエキサイティングな体験です。

庄司大輔氏
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> Vol.6 作陶45年。私の戦いと、岩の原葡萄園のこれから

> Vol.5 次の世代に、いま伝えておきたいこと

> Vol.4 善兵衛2014、それぞれの想いをのせて

> Vol.3 日本ワインの進化と真価(後編)

> Vol.2 日本ワインの進化と真価(前編)

> Vol.1 雪国のワインと、岩の原葡萄園に魅せられて