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特別なできごと Vol.2 特別なできごと Vol.2

日本ワインの進化と真価(前編)

日本ワインの進化と真価(前編)

先輩の想いを受け継ぎ、守り育ててきたぶどうが今年も立派なワインになりました。その発表会を兼ね、これまでの歩みを振り返りつつ日頃お世話になっている方々と一緒に、岩の原葡萄園のワインの進化について考える機会を持たせていただきました。その模様をご紹介します。

岩の原葡萄園 製造部 部長 上村宏一
「2016年岩の原葡萄園 製品説明会」(於 アグネス ホテル アンド アパートメンツ 東京)より

量から質へ。“岩の原ワイン”を模索した日々。

量から質へ。“岩の原ワイン”を模索した日々。

戦後1980年代はじめ頃までは、岩の原葡萄園は一定量のワインを確保するため量産技術を優先していましたが、製品の品質向上が強く求められるようになってきた90年代頃からは“量から質へ”、より美味しく、より岩の原らしいワインの追求へと方向転換していきました。

岩の原葡萄園 有機栽培区
選果台での作業風景

2000年を過ぎたあたりから、ぶどうの栽培方法の改善にも取り組みました。より岩の原の土地の力を引き出すため、減農薬や有機栽培を取り入れ、有機栽培区では草生栽培*を取り入れ自然の草花で畑を耕し、豊かでやわらかな土壌に生まれ変わらせました。

同じ頃、醸造方法も見直し、ぶどうに自生する酵母の中から香りや醗酵が安定しているものを見極め、培養し、これを酒母とする自生酵母での醗酵に挑戦しました。当時は「本当にこれで良いワインになるのだろうか」と夜も眠れない思いでしたが、いろいろな改善を重ね、現在は醸造法を確立しています。

傷んだ実や不揃いのぶどうを取り除く「選果」作業は、はじめは収穫時に畑で行っていましたが、2013年からは醸造所に選果台を設置し、さらに良い実だけを選りすぐる工程を追加しました。この工程を加えることで、取り切れていなかった梗や未熟な粒が完全に取り除かれるようになりました。

これは、"単純に思える作業こそ、品質に与える影響は大きい"ことを実感した出来事でした。

この間畑でも、房作りや仕立ての方法に改良点を見つけては新しいやり方に挑戦し、ぶどう栽培の技術を向上させていきました。

「いつかの日か、善兵衛が残したマスカット・ベーリーAで最高のワインを造り出したい」という想いが品質向上の推進力となり、岩の原葡萄園をひとつにしていったのでした。

*草生栽培(そうせいさいばい)… 畑に植生する植物を自生のまま活かし、直接土壌に浸透する雨量を抑えることで土壌の流失防止や通気性を高める栽培の方法

「今年も、美味しいワインができました」。

「今年も、美味しいワインができました」。

マスカット・ベーリーA

2016年のマスカット・ベーリーA

2016年は、春先から7月終盤にかけて雨が少なく気温も高めで、ぶどうにとっては良い環境と楽観していましたが、9月以降次々と台風が接近。刻々と変わる気象情報をデータで追いながら、病気の蔓延や腐敗につながる要素は事前に取り除き、ベストな状態で収穫を迎えられる「その日」まで緊張の解けない日々が続きました。この時期、毎年岩の原葡萄園全体がピリっとした空気に包まれます。

結果的には、今年も非常に良いコンディションで収穫できました。雨の多い条件だったからこそ、善兵衛が苦心して生み出したマスカット・ベーリーAの生命力の強さや、果実のポテンシャルが引き出された年だったといえるでしょう。

マスカット・ベーリーA
テイスティングをしている女性

テロワールの違いを感じるテイスティング

自園産ぶどうワインの他に、産地によるワインの味わいの違いを知っていただこうと、山梨、山形、新潟(岩の原)で獲れたマスカット・ベーリーAを岩の原葡萄園で醸造し、飲みくらべてもらいました。

山梨県産のマスカット・ベーリーAの特徴は「チャーミング」とよくいわれますが、今回出来上がったワインも甘い香りが非常によく出ていました。山形県産は、酸度がやや高くタンニンが強く感じられるのが特徴で、複雑な香りを楽しんでいただけました。一方岩の原産のマスカット・ベーリーAは一言でいえば、どっしりとした味わいと深い果実味を帯び、これから複雑味のある、まろやかな味わいに変わっていくと思われました。

こうしたテロワールの違いを実際に感じていただくという実験的な取り組みも、日本を代表するぶどう品種を育ててきた私たちの役割だと思っています。なぜなら、土地によるぶどうのキャラクターの違いを知ることは、ワインを楽しむ醍醐味だと思っているからです。

「日本ワインの進化と真価(後編)」
へ続く

バックナンバー
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> Vol.10 岩の原の毎日がつくり出す、岩の原の未来。

> Vol.9 そこに、岩の原葡萄園らしさはあるか

> Vol.8 善兵衛さんと、わたし

> Vol.7 ワインのために、グラスメーカーができること

> Vol.6 作陶45年。私の戦いと、岩の原葡萄園のこれから

> Vol.5 次の世代に、いま伝えておきたいこと

> Vol.4 善兵衛2014、それぞれの想いをのせて

> Vol.3 日本ワインの進化と真価(後編)

> Vol.2 日本ワインの進化と真価(前編)

> Vol.1 雪国のワインと、岩の原葡萄園に魅せられて