

「日本ワインの進化と真価(前編)」では、岩の原葡萄園のワイン造りの進化と、2016年のマスカット・ベーリーAの栽培状況についてご紹介しました。後編では、岩の原葡萄園のワインを含め、いま問われている日本ワインの真価について、日頃お世話になっている方々よりお話しをお伺いする機会をいただきました。その一部をご紹介します。
岩の原葡萄園 製造部 部長 上村宏一
「2016年岩の原葡萄園 製品説明会」(於 アグネス ホテル アンド アパートメンツ 東京)より
日本ワインとは。岩の原ワインとは。
日頃お世話になっている方々に、説明会後の懇親会でお話をお伺いしました。


“ ここ数年、日本ワインを選ぶ層は広がりを見せています。はじめて飲むワインが日本産という20代の若者がいる一方で、ワインを飲み慣れた層にもその評価が高まり、「日本にも美味しいワインがある」と多くの人が気づき始めたのです。出汁や醤油、みりんなどがベースの日本食には、どこかほっとする味わいの日本ワインがとても合うんですよ。日本固有のぶどう品種マスカット・ベーリーAも、主張しすぎずちゃんと美味しい。岩の原葡萄園さんにとってのマスカット・ベーリーAは、他のワイナリーさんのそれとはまったく違う意味を持っていると思います。ひとつのワイナリーの枠を越えて、マスカット・ベーリーAを主軸とした日本ワインの発展に貢献していって欲しいなと思います。”


“ 毎年秋の収穫の時期には日本ワインの特集を扱ってきましたが、日本のワイナリーは確実に変わってきていますね。海外でワイン造りを勉強された方や、ワインの大学を出た方が日本のワイン産地に戻ってきたりしているので、造りのギャップがどんどん小さくなっていますし、美術館のような建築のワイナリーがあったり、ワインツーリズムに力を入れているところがあったり。毎号興味のあるワイン産地のアンケートを取るのですが、日本の産地を挙げられる方もずいぶん増えてきました。そういった方々には、味だけでなく、ワイナリーの持つストーリーも大きな魅力になりますので、岩の原葡萄園さんのような老舗ワイナリーには、是非日本ワインの歴史を大いに語ってもらいたいと思いますね。”



上段左から:山梨産、山形産、新潟産(すべてマスカット・ベーリーAワイン原酒)
中段:レッド・ミレンニューム2015(辛口)、マスカット・ベーリーA 2014、ヘリテイジ 2014
下段:ブラック・クイーン 2014、レッド・ミレンニューム 2015



“ 日本ワイン専門の卸会社をやっていますが、最近「日本ワインが気になっている。店でも扱いたい」といわれる飲食店さんが増えています。和食だけでなく、イタリアン、フレンチでも日本ワインをメニューに取り入れたいという声をいただきます。日本ワインは、比較的価格が高く数も少ないので、正直扱いにくいというのが現状ですが、ワインが造られた土地や風土を感じながら飲んでいただけるという大きな魅力があります。ワイナリーの背景や造り手の想いを踏まえ、そうした魅力をしっかりとお伝えしていきたいと思っています。中でも岩の原ワインからは、歴史を受け継ぎ、守り、より進化させるという気概を感じます。”


“ 日本ワインはここ数年で驚くほど品質が良くなり、知名度も上がっている実感はありますが、実際のマーケットはまだ小さいものです。商品そのものだけではなく、取り巻く環境も理解しないと正しい販売提案ができないのが日本ワインで、品質と価格のバランスを見極めるのが難しいのです。その点、岩の原葡萄園さんのワインには安定感があり「この品質でこの価格なら、納得できる」というものに出合えます。お客さまがどんな日本ワインに出合いたいのか、そのニーズに合わせた機会を的確に作り出していくのが、販売店の使命だと思っています。”


岩の原の大地は一面の雪に覆われ、ぶどうたちは雪の下でじっと春を待っています。
厳しい気候条件だからこそ、ぶどうはそれに応えて強くなる。そうして生まれた日本固有の品種、マスカット・ベーリーAは、ここ岩の原から日本各地へ散っていき、元気にその実をつけています。収穫時、どんどん積み上がっていくぶどうの箱を見て、多くの栽培家が喜びを感じるといいます。飲む人だけでなく、ワインの造り手をも喜ばせるぶどうに育ってくれたマスカット・ベーリーA。長年その成長の過程を見てきた私にとって、新酒が出来るこの時期は格別な気持ちになります。

そして2017年、マスカット・ベーリーAは生誕90年を迎えます。
岩の原葡萄園が必死で守り続けてきたこの宝物を、今後どう未来へ引き継いでいくのか。
私に託された使命は、まだまだ終わりません。
