

市場における日本ワインの存在感が増し、新興メーカーのクオリティも洗練されていく中で、日本ワインの造り手として岩の原葡萄園はどうあるべきか。創業130周年の節目に、自社のブランディングについて改めて考えてみました。
岩の原葡萄園 営業・マーケティング部 今井 圭介
「最近の岩の原葡萄園、変わったよね」とよく言われます。私がマーケティングを担当する以前の5年前と比べると、取材の申し込みやメディアへの露出も格段に増えましたし、営業で外回りしていた時代には見向きもされなかった酒販店さんからも、お声がかかるようになりました。特別なことをした訳ではありませんが、「いいワインを造っても、売れない」という長年の課題に本気で向き合った結果、できること、やらなければならないことはそれほど多くはないと気づいたのです。ひとことで言えば、「ブランドを作る」に尽きます。そのために、大きくは2つのことに着手しました。

岩の原ワインと岩の原葡萄園という会社は、互いを映す鏡のような関係だと思っています。そこで、まずは「企業としてどう見えるか」を見直そうと思い、ホームページを一新。ぶどうやワインの紹介はもちろん、製造、営業、業務などワイナリーを支える全員の顔が見えるようにしました。ひとりひとりが会社の顔であると認識してもらいたかったのです。はじめは「そんなことをしてブランドイメージがあがるのか」という声もありましたが、取引先から良い評判を得たり、周囲の会社を見る目が変わってくるとそうした反発もなくなりました。「見られている」という意識が少しずつ根付いて、いま、社内の雰囲気も変わりつつあります。社員は以前より協力し合うようになり、よりまとまりのある組織に生まれ変わろうとしています。

2016年にホームページをリニューアル

もうひとつ、“看板商品”としての「深雪花」の役割を考え直しました。2018年の創業者・川上善兵衛の生誕150周年というメモリアルイヤーを迎える前に、会社と深雪花のつながりを再認識する機会があったというのも大きいですが、私たちのワインにかける情熱や想いが一番形にとなって表れているのは、やはり深雪花なんだと確信したのです。だから深雪花の広告には徹底的にこだって、そこに私たちが大切にしていることのすべてを込めよう、深雪花という商品そのものに私たちとお客さまをつなぐメッセージを託そう、と決めたのです。
ひとつの理想形は、家族が集まったときに深雪花を囲んでみんなが盛り上がれること。例えば20代の娘さんが「私、これ好きなんだ」と言ったら、お祖父さんは「俺は昔から飲んでるよ」だったり、お母さんには「やっぱり美味しいわよね」と言ってもらえること。各世代をつないでいける、そんなワインになれたらと思っています。そして、深雪花を知っていただいた先に、いろいろな岩の原ワインに出合っていただきたい。そう振り切れたら、余計な言葉や装飾はなくして、ありのままの深雪花を一番美しい形で見せるという考えに行き着きました。
昨年より、国内最大手の米菓メーカー亀田製菓さんと「新潟マリアージュ」を企画・展開しています。ともに新潟生まれのメーカーとして地元を盛り上げようという取り組みなのですが、県の農業試験場や日本酒の審査官にも協力してもらい、大真面目に「ワインと米菓の相性」について追求しました。R&Dの一環ではありますが、それぞれの顧客に美味しいものを紹介し合い、新しい組み合わせでこれまでにない体験をしていただくのが目的です。「美味しい」に「面白い」を掛け合わせて、消費者のよろこぶ顔が見たい。結局、メーカーとしての願いはそこにあります。顔の見える相手と仕事をして、顔の見える距離で、顔の見える人たちに向けて世の中にまだない面白いものを提供していく。SNSやデジタルマーケティングももちろん活用しますが、「そこに岩の原葡萄園らしさはあるのか」という点についてはいつも考えています。


新潟には、「じょんのび」という方言があります。ゆったりと寛いだ気分を表す言葉です。ワインという嗜好品としてスタイリッシュで上質な空気をまといながらも、根っこの部分はのびのびとした、「クールなじょんのび」でありたい。それはメーカーが言葉で表すことではなく、お客さまの心で感じていただくことなのですが…岩の原ワインが、いつかそんな存在になれるように、明日も明後日も考え続けていきたいと思っています。